会長挨拶


沖縄地方は今年に入って3度目の台風襲来中である.実際には2度目だが,台風6号は沖縄本島の南を西に向かって通過した後,宮古島の北150Kmで進路を東寄りに変更し,再度沖縄本島を襲撃するという,まるで,現在ウクライナに侵攻中のロシアの某P大統領と同等な意地悪な性格の持ち主の,いわゆる荒手の台風君主に凶変した.

もし,沖縄地方に台風襲来が無ければ,沖縄農業はどの様に変化し,発展したのだろうか?台風通過中の最中,自宅の二階の窓から台風が吹き荒れる外の景色を眺めながら想像してみた.
サトウキビとパインアップルが基幹作物として沖縄農業を支え,地域経済を発展させたのも,この,大型凶悪犯の台風に耐え,打ち勝つための絶え間ない努力を惜しまなかった結果であると私は考えている.

沖縄農業研究会 会長
川満芳信

1890年頃,沖縄でサトウキビを活用した製糖業がスタートしたと言われるが,そのころから,沖縄の農家は台風に関して,博打(バクチ)・ギャンブル的な栽培を余儀なくされてきたのだろうか?
博打の意味を調べてみると,「偶然の成功をねらってする危険な試み」とあるが,沖縄のサトウキビ産業は正に,「偶然の豊作を狙って,期待して,日々危険な栽培管理作業を,ドキドキしながら挑戦してきたのだろうか?」.南西諸島の各離島にある製糖工場関係者や役場の農業担当者に出くわし,開口一番に「今年の生産量は,何万トンかねー?」と必ず聞く.答えは,「今年は台風も干ばつも無いので,昨年より多いウン万トンです」,と嬉しそうに話す.すなわち,この二つの我々人間の力ではどうにもならない自然災害がサトウキビの収量を大きく支配しているのである.それは誰にでも解る.

この凶悪犯である台風の撲滅は諦めるが,後者の「干ばつ」に関しては我々人間の知恵で克服でき,対処できる事案と考えている.令和1年から南大東島でスタートさせたスマート農業は,中国語では「知恵農業」と表現するが,我々サトウキビ関係者の知恵を結集させて,その問題を解決しようと現在プロジェクトを進めている.特に,令和4年度からスタートさせたUFSMAⅡでは,スマート(知恵)灌漑を中心に据えてサトウキビの増収を計ろうと,全く新しい試み「地中灌漑」を実証試験中である.従来の灌漑方法は,ドリップ(点滴)とスプリンクラー方式が主流で,南北大東島はドリップ方式が,宮古島や八重山地域はスプリンクラー方式が採用されている.それぞれの方式にはメリット,デメリットはあるものの,高齢化した農家には両方式とも負担が大きい.その課題を解決するため,我々はドリップチューブを株下40~50cm深に埋設する地中灌漑を提案し,実際にその効果を実証中である.研究成果は,来年2024年の3月に取り纏める予定だが,現時点での成果は予想していた以上に良好である.

今後,地中灌漑の効果に関し,様々な面から調査して検証するが,我々沖縄農業研究者はこの例の様に新しい農法技術の導入には果敢に挑戦し,同時に様々な課題を解決していく姿勢を崩さず,また,行政はそれをバックアップする体制創りを強力に推進して頂きたい.それが先人たちが教えてくれた自然災害に打ち勝つための極めて重要な「スマート農業,知恵農業」であろう.

「沖縄農業」巻頭言より

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